院長ブログ

帝王切開を実施したトイプードルのワンちゃん


冷え込みがグッと強くなり、冬本番をようやく迎えた感じですね。

急激な気温変化もそうですが、屋内では人も動物も部屋の寒暖差によって引き起こされる症状があります。

ヒート・ショックという言葉はテレビなどでも見かける事が多くなったと思いますが、暖かい部屋→寒い部屋→暖かい部屋、というような急激な室温変化により血圧が乱高下することで心筋梗塞や脳卒中といった血栓が関与する病気が発症するリスクが高くなります。

動物ではそもそも心筋梗塞や脳卒中といった疾患は稀ですが、寒暖差が心肺機能に影響を与える事は十分にありますし、個人的な印象では鼻炎様のくしゃみや鼻水などの症状が見られる事があると感じます。俗にいう"風邪みたいなもの"とはちょっと異なる様相のものですが、気になる症状が見られた場合には一度受診をお願いします。

上記の話との関連は一切ありませんが...今回は、帝王切開のワンちゃんです。

今月は現在2件の帝王切開がありましたが、そのうちの1件ではお腹の中にいた胎仔を助けてあげる事ができませんでした(母体と、自力で出産した1頭は元気に過ごしてくれています)。

2件目の子は、自然分娩を前提として考えていましたが、出産前から何度か様子を見ている間に「もしかすると帝王切開になる可能性が高いかもしれない」というお話をさせて頂いていました。

難産になってしまう例としては、母体側にトラブルがあるケース(例:陣痛が弱い、骨盤の変形、子宮収縮が弱いなどなど)、胎仔側にトラブルがあるケース(例:胎仔過大、胎仔失位など)です。

今回のお母さんワンちゃんでは、体が小さい子であった為に胎仔がギリギリ骨盤を通過できるかという点と、出産前の様子で体力的な面での不安点があるというところでした。

出産予定日として考えていた期間に出産前兆が見られ、陣痛も始まったので「このままいける・・か?」と飼い主様との連絡をやり取りしながら経過を見ていましたが、陣痛が始まって以降も実際に出産までいたるプロセスは乏しく、帝王切開の必要が高いという判断をしてご来院していただきました。

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(予定日の数日前に撮影したレントゲンです。1頭は既に骨盤近くまでこの時点で来ていました。)

しかしいざ陣痛が始まっても生まれる気配はなく、触診してみると産道は開いているものの胎仔の下降は確認できなかった為、陣痛促進剤の投与などを行って自然分娩を待つというメリットは低いと判断し、すぐに帝王切開に移行しました。

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術後の子犬たちとお母さんワンちゃんの様子です。

飼い主様に取り出した子犬の処置をお手伝いして頂き、3頭全員が無事に生まれました。

先日の子達は助けてあげる事ができなかったのが本当に悔しく残念でした。

生まれた子達は、これから頑張って元気に過ごして欲しいと願うばかりです。



若齢の猫ちゃん避妊手術の「???」なお話


避妊・去勢手術は多くの病院で行われている手術です。

一般的な手術ですが、だからといって勿論手を抜いていいものではありません。

特に避妊手術は獣医師にとっての手術の基本編となる技術が沢山詰まっており、何例行っても勉強させられる事が数多くあります。

その数多く実施される手術の中で、「????」と思う事や「?!」と思う事も度々遭遇します。

今回はそんな「????」の例です。

患者様は1歳未満の女の子の猫ちゃんです。

お家に迎えられてから数か月が経ち、そろそろ頃合いかなということで避妊手術のご相談にご来院いただき、健康状態や各種予防状態を確認して、後日に手術日を決定致しました。

お家に迎えてからは元気ハツラツ、お転婆娘と評されるくらいに走り回っているというお話でした。

手術当日も元気いっぱい、麻酔の関係でゴハンがもらえないことにご不満な様子以外にはいつも通りでした。

手術前の検査に関して何ら問題はなく、麻酔の準備も完了して手術開始!!

麻酔も安定していて普段と変わらない流れで手術は進んでいきますが、では卵巣を摘出するぞ、という段階で...

「????」

という状況に遭遇です。

予想していた状況と全く違う事に面食らってしまいました。

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卵巣が、周囲の組織とひどく癒着してしまっています。また形も非常に歪なものでした。

手術前に何らかの異常所見(血液検査の異常や、体調の変化や痛み、行動の変化などなど)があれば「何かあるかもしれないな」という心構えが持てますが、全くの正常でしたので、見た瞬間は「????」となってしまいました。

激しい炎症の結果で癒着を起こしてしまったという状況は予想できますが、何故に炎症が起きたのか、そしてそれによる症状が全く見られなかったのは何故なのか。

疑問を抱えたまま、癒着を解除できない部分はそのまま切除して、手術は続行していきました。

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摘出した左右の卵巣ですが、明らかに異なっています。片側は正常ですが、反対側は倍以上です。

術後の猫ちゃんの様子は安心したことに全く問題なく、退院後も相変わらずの元気ハツラツな様子でした。

さてこの異常な卵巣(&子宮の一部)は何だったのかというのは病理検査で調べましたが、原因ははっきりとはわかりませんでした。「何かの原因で炎症が起きた結果こうなった」という段階までしか、検査をしてもわからなかったのです。

各病院さんでも避妊・去勢手術に限定しても、「????」「??!!」なエピソードは多々あるかと思われます。

個人的な経験では先天性の奇形で、卵巣や子宮、睾丸の一部が無いなどの例は遭遇したことがあります。「あれ?ない...ぞ?どこだ?!」と探し回って結局は「元々無い」という結論に至るまで頭を右に左にひねっていた昔の自分を思い出します。

健康状態や各種検査で何かしらの異常が認められている上で必要に際し行った避妊去勢手術などでは今回のような炎症にかかわる異常所見も見られる事があるかもしれませんが・・・

はたして一体何であったのかという謎は謎のままとなってしまっていますが、何より猫ちゃん当人は元気に過ごしてくれているのが何よりです。避妊手術を行わなかった場合にどうなっていたかは、原因がわからないので予想も難しいですが、結果として何かしらの症状が見られる前に手をうてて良かったと思います。



皮膚に発生する"できもの"いろいろ


皮膚の病気は飼い主様が目に見えて気づきやすい点で、発見が早い傾向にあります。

・皮膚が赤い、といった色調の変化

・脱毛してきて毛が薄くなってきた

・フケが多くなった

・しこりができている 

などなどです。普段目にしやすい背中側や頭部の病変は発見されやすいですが、お腹側の脇や股の辺りといった陰になり易い場所だったり毛量が多い子は見つけにくい事もあります。普段からブラッシングや定期的に(毎日でなくても十分です)体を触ったりしてコミュニケーションを取りつつ、皮膚のトラブルを早期に発見するという事は非常に大切です。

今回は皮膚のトラブルの中で、"できもの"(しこり)について幾つかご紹介したいと思います。

よく「イボができてしまった」とご来院されるケースがあります。イボといってもその形や大きさは様々です。

特別に治療介入しなくとも悪さをしなければ様子を見てもよいものもあれば、悪さをしている・今後しそうなものは治療しなくてはならないものなど、ケースバイケースです。

外見のみでの判断では誤ってしまう事がある為、一言に"イボorできもの"といっても、やはり検査を行って調べておくことが望ましいです。

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上の7つの写真ですが何れも皮膚のしこりやできものを主訴にご来院された例で、全て切除摘出した後に病理検査を実施して確定診断が出たものになります。

発生場所や形、動物の種類・年齢といった情報は勿論重要ですが...

さて、今回は外観のみで結果的にどれが腫瘍で、そして良性悪性だったか、わかりますか?

ちょっと予想してみて頂ければと思います。








では解答に参りましょう。

腫瘍性で且つ残念ながら悪性という結果だったものは、③と④です。

腫瘍性且つ良性という結果は、①②⑤⑥です。

非腫瘍性だったものは⑦でした。

どうですか?予想されたものと合っていましたか?

良くない・悪そうな"できもの"のイメージは、見た目の色が赤かったり赤黒くなっていたり、形が不整だったりというものがあるかと思います。確かに短期間の間に大きくなってきて色調が変わっているものは悪い例である事が多いのも確かですが、一概にそれだけで悪性と判断する事はできません。

"できもの"を見つけた際には、様子をずっと見続けるのではなく早めに一度診察をして、それが何であるかを調べておく事が大切です。

検査には針生検、切除生検といったできものの細胞組織を採取して顕微鏡で視ることで相手の正体を調べる事が一般的です。

針生検は簡便で負担も少ない事からよく実施される検査です。但し採取される組織量は少ない為、確定診断には至りません。

切除生検は病変の一部あるいは全てを採取して検査するもので、小さければ局所麻酔、大きいものは全身麻酔にて採取します。小さすぎて針生検が実施できない例や、小さめで切除する事で検査と共に治癒が期待できそうな場合にはこちらを選択する事があります。

いずれにせよ、外見では腫瘍なのかそうでないのか、良性なのか悪性なのかは目安でしか判断できない為、気になる"できもの"を見つけた場合には、検査を含めて受診されることをおすすめいたします。



腸閉塞で腸管切除した一例


先日の台風は夜間に通過したので、その凄まじさはニュース映像と暴風の音で主に感じられるものでしたが、通過した翌朝は街のいたるところにその爪痕が残されていましたね。自宅近辺では植え込みの木が倒れているところもあれば、どこから飛ばされてきたわからないような看板や、傾いてしまっている大きな立て看板、屋根が半壊してしまっている場所もありました。

今回の台風による動物達への影響は、やはりその音にかかわるものだと思われます。

普段聞かないような風の音、物が飛ばされたりぶつかったりする音などで一時的に情緒不安定になってしまったりする子もいるかもしれません。そういった場合には、何より飼い主様と一緒にいる時間、安心できる時間を作ってあげて頂く事と、不安などのストレスを発散できるように散歩や遊びなどを行ってあげることで、気持ちの回復が早まってくれることでしょう。

今日は腸閉塞の事例です。

異物による閉塞は決して少なくありません。果物の種、ボール、靴下、手袋、毛玉、ティッシュ、布端切れ、糸や紐、オモチャなどなどがよく見かけられる異物です。異物の多くは腸の細い部分、小腸で詰まってしまう事が多いです。大腸は太いために、小腸を通過してきた異物がここで詰まることはあまり見かけません。あまりに大きいものは胃を通過する事ができず、胃の中(幽門)で詰まってしまうでしょう。

食べてはいけないものを飲み込んでしまった場合は、すぐに処置が必要になります。

内容や大きさによっては吐かせて回収させる催吐処置や、吐かせることが危険だったりするものは麻酔下内視鏡での摘出、液体や薬剤などの場合には胃内洗浄などを行います。

何を、いつ、どれくらい飲み込んでしまったかというのは情報として非常に重要なものになりますので、是非記憶に留めておいていただきたいと思います。

今回の子はパズルマットの一部を齧っていて、それを吐いていたという主訴がありました。

その症状が見られてから徐々に食欲・元気がなくなってきて、嘔吐も頻繁にみられグッタリしてしまったとの事で来院されました。

高齢の子で全身的な体力の低下、脱水が顕著だった為に危険性が高い状態でした。問診で得られた情報と画像検査にて腸閉塞を確認し、来院日は点滴処置による状態改善を図り、翌日に手術を行いました。

閉塞していた部分は詰まりやすい小腸の空腸・回腸といった細い部分より手前の、十二指腸の部分で閉塞していました。

閉塞部分の周囲は炎症により癒着があり、また閉塞部の一部は壊死が認められました。

場所が良くないことにこの近くには膵臓という臓器が存在するため、そちらの影響も懸念されました。

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切除した閉塞部分です。一部壊死と癒着があった為、その領域を含んで健康な部分の一部を含めて切除してあります。

妙に鋭角的になっている腸がおわかりいただけるでしょうか。

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一部壊死して、癒着していた部分です。

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これがこの子を苦しめていた敵の正体です。飼い主様の仰られていたように、パズルマットの一部でした。

パズルマットの角の部分がつっかえ棒の役割となってしまい閉塞してしまったのでしょう。

来院時の状態と、閉塞部分が懸念される領域でしたが、1週間の入院の後には驚くほど食欲旺盛になって退院していきました。きっとこの食欲なら回復も早い事でしょう。

異物による閉塞は、疑われるものと、診断・治療までの時間が大切です。一般的には0~1歳までの子犬子猫や、食事やオヤツを丸飲みする傾向にある大型犬の子などが異物誤飲が多くみられます。また猫は糸や紐といったものでの閉塞も多く、これらは非常に腸の損傷が広範囲に及ぶことが多いですので、紐などで遊ぶ際は十分に気を付けてあげてくださいね。



子宮蓄膿症のワンちゃんの一例


避妊手術を行っていない犬猫で遭遇する機会の多い病気は、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍が筆頭に挙げられます。

乳腺腫瘍は早期の避妊手術によって発生率が将来的な発生率が低下するという事は幾度かお話させて頂いております。

今回例に挙げている子宮蓄膿症におきましては、避妊手術を行えば発症する事はまずありません。

この病気は中高齢になってから発生しやすくなります。発情を迎えるとホルモンバランスが変化することで、体の免疫力が低下してしまいます。その免疫力の低下している時期(大体発情出血から2か月間程)に子宮に細菌感染を起こしてしまうと、子宮蓄膿症へなってしまいます。

発情の有無に関わらず、基礎疾患や高齢での体力免疫力の低下、卵巣の腫瘍やホルモン異常などが原因となっていることもあります。

今回のワンちゃんは間もなく14歳になる子で、食欲不振とお尻からの出血を主訴にご来院されました。

診察するとお尻からの出血ではなく、陰部から膿が排出されていました。

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この後各種検査を行い、開放性子宮蓄膿症と診断しました。

子宮蓄膿症には二つのタイプがあり、開放性か閉鎖性か、つまりは膿が外に出てきているかそうでないかに分かれます。通常は閉鎖性の方が発見までに時間がかかることがあり、また症状が重篤になる傾向にあります。
このワンちゃんは開放性で、血液検査上では重症度はまだ高くない状態と判断し、手術適応としました。

子宮蓄膿症の治療法には外科的治療と内科的治療がありますが、根治的な治療となる外科的治療を選択しました。

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↑術中の子宮です。通常の子宮は薄っぺらい紐のような形態ですが、膨らんで筒状になっています。

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摘出した子宮です。左右の卵巣も大きくなっていることから、卵巣の問題からホルモン異常を起こして子宮蓄膿症になってしまった可能性が考えらます。

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子宮を一部切開すると、黄色の膿汁が沢山でてきました。

このワンちゃんは術後の翌日には食事を食べ始めてくれ、手術から4日目で退院しました。まだ術後のケアが必要ですが、しっかりと食事を食べて頑張って治ってほしいですね。



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