胃内異物による不完全閉塞のケースリポート
異物誤飲によるケースは決して少なくはありません。
多くの場合では自然通過(※必ずしも様子見していい例ではないので必ずお問合せ下さい)するか、誤飲後時間経過が間もない&催吐可能なものであると場合には催吐処置で回収を試みるものがほとんどです。催吐処置では回収できず又は催吐させることができない異物の場合には内視鏡での摘出となったケースも勿論あります(※内視鏡の場合には他院様へご紹介させての処置をお願いしております)。
しかし、上記のケースに該当しない或いは既に小腸へ移動してしまい閉塞している場合や、胃内にあっても内視鏡摘出が困難な場合には外科的な摘出をするしかありません。
今回のケースは猫ちゃんで、10日ほど前より吐いたり吐かなかったりを繰り返す症状が見られていました。
食欲はあったり少し減ったりと不定な動向で、活動性も同じように不安定でした。
飼い主様がしばらく様子見をしてしまった原因の一つは、便通がある程度毎日出ていた事でした。
飼い主様の見識として、閉塞すると物体の通過が邪魔されますので、胃あるいは小腸で閉塞すると上から来たものは閉塞地点で滞留し逆流(嘔吐)、閉塞より先の部分には新たな便が形成されないので便が出なくなる、というものがありました。この点に関しては間違ってはいませんが、しかしその例に該当しないケースも勿論あります。今回の子はその該当しないケースという事でした。
以前より少し異物を齧る癖も見られていた子でしたので、何か飲み込んだ可能性も疑っておられました。しかしその場合何を飲み込んだのかはわからなかったようですが、あるべきものが一つ無くなっているのに気付き、もしかすると...という事でその無くなった物と同じ新品を参考としてお持ちいただきました。
X線にて一目瞭然、胃内に異物が確認できます。お持ち頂いたもの寸分違わぬ形と大きさでしたので、診断即決です。
何を飲み込んでしまったかというと、ゴム製のパッキンです。割と大きめなのでまさか飲み込んでないよね...という思いだったようですが、上手(?)に飲み込んでしまっています。
胃内に停滞していたのは、ある意味で不幸中の幸い、不完全閉塞となっていたのでうまく食べ物が通過できた場合には消化吸収・排便が出来ており、異物に邪魔されて通過できなかったものは嘔吐していたという事になります。
ゴム製なので内視鏡摘出も検討されましたが、日数が経過しておりゴムが胃酸により劣化&硬化している可能性と、大きさがそれなりにあった為、胃切開による摘出となりました。
術中の様子です。赤丸部分が胃であり、糸で釣り上げているその直下に異物が存在しておりデコボコした形状になっています。
摘出した異物です。写真ではわかりづらいですが、予想した通りゴムの一部は硬化していました。
幸いだったのは不完全閉塞だったという点は前述の通りで、胃及び腸などに対するダメージが非常に軽度であったという事です。術後の回復は順調で、退院後の食欲も問題なく過ごしてくれているようです。
猫ちゃんにおいては紐状異物に対しての注意喚起は度々させて頂いております。しかし、予想外にやってしまう場合には予防対策がしづらいのも当然です。もしかするとこの子は異物を飲んだのかも...?と頭をよぎるケースがあった場合には、必ずお家の中・身の回りを可能な限り探索して、あるべきものが無い、あったものが無くなっている・欠けているというものがあれば、受診の際にお持ち頂けると診断の一助になりますので宜しくお願い致します。