心タンポナーデを生じてしまったワンちゃんの例


心タンポナーデとは、心臓を包みこむ「心膜」と「心臓」との間にある空間、心膜腔に液体が貯留してしまう事で心臓の働きを低下させてしまう緊急性の疾患です。

貯留してしまう液体のほとんどは血液を主体としたもので、個人的な経験で言えばそれ以外の液体成分は見たことがありません。

この液体(以下、血液とします)が貯留してしまう原因は大きく分けて2つです。

最も多いのは心臓に腫瘍が発生し、そこから出血してしまう例です。

心臓に発生する腫瘍は血管肉腫という非常に悪性度の高いものであったり、大動脈小体腫瘍という珍しい腫瘍だったりしますが、これも経験的には血管肉腫の原発あるいは転移という例がほとんどです。(※ほとんどというのは、確定診断できなかった例もあるからです)

2番目の原因は、特発性です。ようするに原因不明でいきなり血液が溜まってしまう、というものです。

心臓の周りに液体が貯留してしまうと、心臓は思うように動きが取れなくなってしまいます。心臓は血液を溜め込んだ後に、力強く拍動する事で全身に血液を送り出します。しかし、心膜腔に液体が溜まってしまうと水圧で外側から押しつぶされている状態となってしまう為、心臓の中に血液を貯める空間が少なくなってしまいます。結果、全身に送り出せる血液量が減少してしまうのです。

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また出血の量が多い場合には貧血も起こりますので、これら二つが同時に起こると低血圧となり、ショック状態となってしまいます。

この状態になってしまったら兎にも角にも心臓の周りに溜まっている血液を抜いて、正常な動きができるように圧迫を解除してあげる必要性があります。この処置に為には、心臓に刺さらないように気を付けながら心膜腔に針を刺して液体を吸引しなければなりませんが、針を刺すことで不整脈を起こしてしまったり、そもそも状態が非常に悪い事が大半なので処置自体にもリスクが生じてしまいます。

血液を抜くことで心臓の働きが元通りに近い状態になってくれたら、その次は今後の対策を考えなければなりません。

特発性の場合には原因が不明な為に対応策が難しいものがあります。

腫瘍であった場合には原因がはっきりしている分だけ特発性よりも治療などの道筋が見えやすいですが、心臓発生の腫瘍がほぼ悪性である事、発生部位が心臓である事...これらが大きな問題です。一般的に心臓に発生する腫瘍には抗がん剤は効果が乏しい例も多く、腫瘍を切除する事は非常に難度が高いあるいは不可能な例もあり、また放射線治療は効果が得られるかもしれませんが実施できる施設が限られます。

いずれの原因にせよ心タンポナーデは予後が厳しい病気です。

溜まってしまった液体(心嚢水)を1度だけ抜いて以後は生じない事もありますし、抜いても翌日には元通りになってしまう場合もあります。一つの対策として心膜切除術という手術があります。これは心臓の働きを助けるため、心膜を除去する事で心膜腔をなくし、心嚢水が溜まらないようにするという手術です。根本的な解決にはなりませんが、症状の改善や、原因追究の一助になることもあります。

今回はこの心タンポナーデの子がそれぞれ二日続けて来院されました。

どちらもワンちゃんでシニア年齢、主訴は突然の虚脱又は失神という事でした。それ以前には同様の症状は見られず、朝も元気だったがいきなり具合が悪くなってしまったという事でした。

先ずは1例目のワンちゃんです。今までに基礎疾患での受診歴はなく、また咳や食欲不振といった症状は見られませんでした。朝の散歩の際に、失神するように一度倒れてしまったとの事でした。その後意識が戻りましたが、元気がないとの事で来院されました。

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横向きのレントゲンではハッキリとはしませんが、何となく心臓が丸みを帯びています。

縦向きのレントゲンではその丸みがもう少しわかりやすくなります。

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分かりづらい画像ですが、心臓の周りに黒く抜けた空間があります。これが、心膜腔に溜まった心嚢水です。

2例目の子のレントゲンと超音波画像です。このワンちゃんは、突然ぐったりして歩けなくなってしまったという事でした。咳の症状が1~2か月前より少し見られていたとの事ですが、当日の食事や散歩も普通にできていました。

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この子は心臓がまん丸なのがお分かりいただけるかと思います。

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こちらも超音波画像は見づらくて申し訳ないですが、やはり1例目の子と同様に心臓の周りに液体が貯留しています。

どちらの子もこの後、心嚢水を抜く処置を行いました。

抜き取った心嚢水の一部がこちらです。

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血液そのものが抜けたようなものです。

どちらのワンちゃんにも心臓に腫瘍を疑う画像検査所見が見られました。

吸引した心嚢水の検査を行いましたが、どちらも腫瘍を特定できる検査結果ではありませんでしたが、状況判断からは腫瘍起因の心タンポナーデと診断しました。
1例目のワンちゃんは処置後に状態は大きく改善し、今後の方針を相談する時間を得るために対症的な治療薬を処方させて頂きましたが、残念ながらその日の夜に再び急変して亡くなってしまいました。2例目のワンちゃんは原因治療ではなくQOL維持を第一としたご自宅での治療を選択され、投薬による管理を続けています。

腫瘍性の心タンポナーデに遭遇しやすいと感じるのは高齢の大型犬やミニチュアダックスフンドです。特にミニチュアダックスフンドは突然の歩行困難(虚脱)になってしまう時に椎間板ヘルニアと思ってしまう事もあるかもしれません。

血液検査では心タンポナーデの可能性を見つける事はできません。また予防する方法も残念ながらありません。予防に繋がるものとしては画像検査をすることで心臓に腫瘍がないかどうか、あるいは心臓に転移しやすい他の臓器の腫瘍がないかどうか(例:脾臓の悪性腫瘍など)を調べておくことになります。



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