副腎皮質機能低下症(アジソン病)のワンちゃんの一例


副腎とは左右の腎臓の横に存在する、小さな臓器です。

皮質と髄質という2層に分かれており、体に非常に重要な役割を果たす各種のステロイドホルモンを作り出して分泌します。

2018101801層状構造となっており、それぞれから異なるホルモンを作り出しています。皮質は3層に分かれ、各層から糖質コルチコイド、ミネラルコルチコイド、性ステロイドを作り出します。髄質はアドレナリン、ノルアドレナリンといったホルモンを分泌します。

「ステロイド」という言葉を見ると、悪い印象を感じられる方も少なくはないですが、生体にとってステロイドホルモンというものは必要不可欠なものです。過不足無い状態であることが正常であり望ましいことなのですが、これらのバランスが崩れてしまう事で様々な病気になってしまいます。

ステロイドホルモン(主に糖質コルチコイド)が過剰に作り出されるようになってしまう病気が副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、対してステロイドホルモン(糖質、ミネラルコルチコイド)が作り出されなくなってしまう病気が副腎皮質機能低下症(アジソン病)です。

今回のワンちゃんは、2歳の避妊済みのウェルシュ・コーギーの子で、アジソン病と診断した子の例です。

アジソン病は副腎からステロイドホルモンを作り出す機能が低下してしまい様々な症状を引き起こします。しかし、飼い主様が気づかれる症状としては食欲不振や元気消失、筋力の低下、下痢や嘔吐といったよく見かける症状が主なもので、『この症状が見られたからアジソン病かもしれない!?』となるケースはほとんどないでしょう。

ペットホテルや来客、旅行などの環境変化といった何らかのストレスが加わったかもというイベントの後に毎回体調を崩したりするような場合はアジソンの可能性が考慮されます。しかし、精神的なストレス負荷後に体調崩してしまう子も沢山いる為、あくまで可能性としてであり、特徴的な症状として結び付ける事は難しいです。

今回のワンちゃんは、一過性の下痢の後に食欲不振が続き、その後は頻回の嘔吐と元気消失を主訴に来院されました。この主訴だけですと胃腸器疾患を第一に疑います。少し気になる症状としては、排尿量が多いという症状がありました。

嘔吐の回数があまりに多い為、胃腸器疾患、とりわけ腸閉塞などを疑いながら各種検査を進めていきましたが、どうにも胃腸器系には大きな問題は見当たりません。検査から胃腸器系が主な原因ではなさそうな点、そして血液検査結果からアジソン病の疑いを強く持ったため、アジソン病かどうかを確かめる検査を行いました。その結果、入院翌日にはアジソン病という確定が得られたのでその治療を開始したところ、みるみる元気さを取り戻してくれました。

今現在は定期的な検査を行いながら投薬による管理を自宅で行ってもらっています。アジソン病は残念ながら完治する病気ではない為、一生涯に渡って投薬による治療が必要となってしまいます。しかし、投薬管理が順調ならば日常生活は他の健康な子とそん色なく過ごせるでしょう。

何故、副腎という臓器の働きが低下してしまったのでしょうか。

アジソン病の原因の多くは、特発性の副腎委縮、つまりは原因不明です。自己免疫性破壊が原因ではないかといわれていますが、アジソン病の9割は特発性といわれます。その他には腫瘍、感染、薬剤などによる例もあります。

ようするに、アジソン病には予防方法が存在しないという事になってしまいます。

アジソン病は症状が徐々に進む慢性タイプから、急激な虚脱・ショックなどを引き起こす急性タイプ(アジソンクリーゼ)があります。今回のワンちゃんは慢性タイプでしたが、急性タイプの場合は生命の危険性が非常に高い状態となります。

予防法がない為、「何となく元気がない」「慢性的な下痢が続く」「ホテルやトリミングなどのイベント後に体調を崩しやすい」などの症状が見られる場合には血液検査を実施して、アジソンの疑いがないかどうかを調べておくことも大切です。



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