避妊・去勢手術は多くの病院で行われている手術です。
一般的な手術ですが、だからといって勿論手を抜いていいものではありません。
特に避妊手術は獣医師にとっての手術の基本編となる技術が沢山詰まっており、何例行っても勉強させられる事が数多くあります。
その数多く実施される手術の中で、「????」と思う事や「?!」と思う事も度々遭遇します。
今回はそんな「????」の例です。
患者様は1歳未満の女の子の猫ちゃんです。
お家に迎えられてから数か月が経ち、そろそろ頃合いかなということで避妊手術のご相談にご来院いただき、健康状態や各種予防状態を確認して、後日に手術日を決定致しました。
お家に迎えてからは元気ハツラツ、お転婆娘と評されるくらいに走り回っているというお話でした。
手術当日も元気いっぱい、麻酔の関係でゴハンがもらえないことにご不満な様子以外にはいつも通りでした。
手術前の検査に関して何ら問題はなく、麻酔の準備も完了して手術開始!!
麻酔も安定していて普段と変わらない流れで手術は進んでいきますが、では卵巣を摘出するぞ、という段階で...
「????」
という状況に遭遇です。
予想していた状況と全く違う事に面食らってしまいました。
卵巣が、周囲の組織とひどく癒着してしまっています。また形も非常に歪なものでした。
手術前に何らかの異常所見(血液検査の異常や、体調の変化や痛み、行動の変化などなど)があれば「何かあるかもしれないな」という心構えが持てますが、全くの正常でしたので、見た瞬間は「????」となってしまいました。
激しい炎症の結果で癒着を起こしてしまったという状況は予想できますが、何故に炎症が起きたのか、そしてそれによる症状が全く見られなかったのは何故なのか。
疑問を抱えたまま、癒着を解除できない部分はそのまま切除して、手術は続行していきました。
摘出した左右の卵巣ですが、明らかに異なっています。片側は正常ですが、反対側は倍以上です。
術後の猫ちゃんの様子は安心したことに全く問題なく、退院後も相変わらずの元気ハツラツな様子でした。
さてこの異常な卵巣(&子宮の一部)は何だったのかというのは病理検査で調べましたが、原因ははっきりとはわかりませんでした。「何かの原因で炎症が起きた結果こうなった」という段階までしか、検査をしてもわからなかったのです。
各病院さんでも避妊・去勢手術に限定しても、「????」「??!!」なエピソードは多々あるかと思われます。
個人的な経験では先天性の奇形で、卵巣や子宮、睾丸の一部が無いなどの例は遭遇したことがあります。「あれ?ない...ぞ?どこだ?!」と探し回って結局は「元々無い」という結論に至るまで頭を右に左にひねっていた昔の自分を思い出します。
健康状態や各種検査で何かしらの異常が認められている上で必要に際し行った避妊去勢手術などでは今回のような炎症にかかわる異常所見も見られる事があるかもしれませんが・・・
はたして一体何であったのかという謎は謎のままとなってしまっていますが、何より猫ちゃん当人は元気に過ごしてくれているのが何よりです。避妊手術を行わなかった場合にどうなっていたかは、原因がわからないので予想も難しいですが、結果として何かしらの症状が見られる前に手をうてて良かったと思います。