過去にも「肺水腫」のお話はさせて頂いた事があるかと思います。
一般的には...というよりかは、当院では主にという表現をさせて頂きますが、ワンちゃん(特に小型犬種)に多くみられる僧帽弁閉鎖不全症という弁膜症の悪化によって、心臓からの血液循環に支障きたし、その結果、本来は空気を取り込んで赤血球に酸素を渡す役目を果たすべき肺の中に空気ではなく水分が入り込んでしまい、酸素が体内にうまく取り込めなくなってしまう状態です。いわば、陸地にいながら"溺れた"状態となってしまうのが肺水腫です。
弁膜症以外の原因でも肺水腫は生じます。代表例では、猫ちゃんでは心筋症という疾患であったり、心臓に関連しない場合では電気コードを齧って感電してしまった後に生じるケースもあります(※厳密には感電の場合は前者達とは異なりますが)。
何れの原因にせよ、肺水腫という状態に陥ってしまった場合には緊急を要する状態であり、治療介入を行っても亡くなってしまう可能性もある、非常に危険な状態となってしまいます。
今回のケースリポートは、2024年に入り当院で治療をさせて頂いた、肺水腫を患ってしまったケースです。
4例の内3例は、『今までに心臓の治療を既に行っていて安定していたが、ここ3日以内で急激に悪化した』というケースです。
元々の心臓疾患の診断は以前にさせて頂いており、その病態の程度によって心臓の負担を軽減するお薬を単独あるいは複数を組み合わせて処方させて頂いておりました。しかし、ここ3日以内に元気食欲の低下と呼吸が荒くなってきて寝ていないという主訴にてご来院されています。
1例目の子の 左:発症前のX線 右:発症時のX線 です。
赤丸で囲った部分の肺が、発症前と比べると白っぽくなっていることがおわかりになりますでしょうか。
簡単に言うとこの白くなった部分に水が溜まってしまっているという状況になります。
2例目の子の 左:発症前(発症時の7日前)のX線 右:発症時のX線 です。
1例目の子に比べると、肺の白さが非常にわかりやすいかと思われます。1週間前に経過のX線を撮影した際は何ら症状が見られませんでしたが、この数日後から異変が見られました。
3例目の子のX線画像です。この子は当院での治療履歴が無く、他院様にてお薬を処方して頂いていたようですが、かかりつけ様が休診日の為に緊急で来院されました。やはり、赤丸の部分の肺が白くなっています。
今までの3例はワンちゃんでしたが、4例目は猫ちゃんになります。
3例のワンちゃんは何れも僧帽弁閉鎖不全症からの肺水腫が主体となっていました。
4例目の猫ちゃんは、心筋症という病気からの肺水腫となります。今までは特に無症状で体調に気になる点はなかったようで、来院履歴は無い子でしたが、数日前から呼吸回数が多い気がするとの事で来院されました。各種検査の結果、心筋症と診断し、治療が奏功して赤丸の状態→青丸の状態へと改善してくれました。
4例のうち、残念ながら1例の子は翌日に亡くなってしまいました。3例の子は現在も投薬により、治療・経過観察中です。
今回のケースにて、飼い主様からのご質問の共通事項が『急に悪くなってしまうものなのですか?』というものでした。
確かに投薬にて安定していたものが、数日の内に悪化して緊急事態に陥ってしまったとすればそのご質問をいただく事もわかります。
『はい。なる時はなってしまいます。ですので、普段の様子の観察と、変だなと思ったらすぐに受診をしてください』というお答えしかできないというものです。
心臓疾患の治療中あるいは心臓について注意してくださいねとご指摘を受けたことのある方は、以下の事をよく覚えておいてください。実際にこれを覚えて頂いていた飼い主様が異変に早々に気づいて、重症化する前に手を打てたというケースがありました。
≪安静時呼吸(落ち着いて休んでいる時の呼吸・胸の動き)の回数が1分間に40回以上の時は、呼吸が苦しい可能性あり≫