皮膚にできたイボから出血が・・・ という例 ~形質細胞腫~
今日は、数か月前より顎下にできものがある、という子のお話です。
飼い主様が最初に気づかれたのは半年程前になり、その時は小豆サイズくらいのできものが顎下に1か所できたなというものでした。
特にワンちゃんが気にする事もなければ、ご自宅で見ている限り大きくなる事もなかったので様子をみていました。
少しそのできものが大きくなってきて、表面を擦ってしまって出血しているのことで受診されました。
大きさは1cm大くらいの皮膚腫瘍と思わしきものがあり、掻き壊してしまったかタオルなどに擦り付けてしまったかのようで表層から多少出血しておりましたが、大事に至るものではありませんでした。
外観と経過からできものは皮膚腫瘍と疑い、大きさが小さい内に切除兼病理検査を行う事になりました。
元々飼い主様のご希望として歯石処置がありましたので、その際に同時に行うことになりました。
半年ほど前から存在し、ここ最近大きくなってきたので、では切除しましょうとなった手術当日。
再度できものの大きさを測ってみると、半分ほどに...。1週間前の手術前検査時からいきなり小さくなっていました💦
とはいえ歯石取りも今回は同時に行う予定でしたので、麻酔を実施したのちに歯石スケーリングと皮膚腫瘍切除を行いました。
下顎にある腫瘍の切除前です。大きさは特に問題にはならないサイズですが、御覧のように中心部が糜爛といって外傷起因もありますがただれてしまっています。少し擦れてしまうとじわぁぁぁぁという出血が出ては止まってを繰り返すような感じでした。
切除した病変です。周囲組織も少し含めて切除してあります。
病理検査では良性の皮膚腫瘍である「形質細胞腫」でした。
形質細胞腫は犬に多く、猫では少ない皮膚腫瘍です。一般的には中高齢で発症し、若齢ではあまり見られません。
口周囲、肢端、体幹部、耳介などに発生する割合が多いです。この腫瘍の細胞形態によってはリンパ腫などの悪性腫瘍と混同してしまう事もありますので、検査によって怪しい場合は小さい内に切除する事をお勧めします。
これと外観が似たもので「皮膚組織球腫」という腫瘍があります。若齢または6~7歳以降に見られることの多い良性の皮膚腫瘍で、若齢でも見られる事が形質細胞腫との違いの一つになります。
この腫瘍、"無治療で自然と退縮"していく可能性がある腫瘍なのです。最初は少しずつ大きくなりますが、ある程度まで大きくなるとそのままになり、2~3か月かけて次第に小さくなって最後は消失するというものです。勿論全部が素直に消えてなくなってくれるわけではなく、小さくならずに居座り続ける奴もいますが、皮膚組織球腫であった場合には先ずは経過を見てから外科的介入の判断をします。
外観上で区別がはっきりとはつきませんので、通常は細胞診という検査を行って判断いたします。
今回のワンちゃんは麻酔を別途実施する予定がありましたので、細胞診という検査を行わず、切除した組織そのものを調べるという方法で行いました。
形質細胞腫は切除によって予後が良好なものです。今回のワンちゃんも切除にて根治が見込まれると思います。
歯の写真はありませんが、お口の中もスッキリとして、当日夜に退院となりました。
お口の中は概ね少量の歯石と軽度の歯肉炎がみられる程度で、口腔内の状態としては大きな問題はありませんでしたが、たった一か所だけ、特定の歯茎のみ他とは異なりダメージを受けている部分がありました。
このように全体として見える部分は問題がなくても、詳しく見てみると普段は見えない場所にトラブルが起こっている事もあり得ます。
定期的なデンタルケア&チェック、是非心掛けていただければと思います。