皮膚腫瘍(肥満細胞腫)のワンちゃんの一例


今回は、皮膚に発生した腫瘍の一例です。

飼い主様が後ろ肢に小さなイボができていることに気づき、気になるので念のためという事で受診されました。

飼い主様が気づかれる1週間ほど前にトリミングサロンさんにてシャンプーをしてもらったとの事ですが、その時点では特にご指摘はなかったという事でした。

ワンちゃん自身が気にしたりする様子もなく、いつからあったのかはわからないということです。

実際に診させていただくと、右後肢の大腿部に1cm程の円形の皮膚腫瘤が形成されていました。

中高齢以降のワンちゃんには皮膚にイボ状のできものが形成されてくることが多くあります。そのほとんどが良性のものではありますが、中には悪性のものが潜んでいる事も当然ありえます。外見から良性悪性の判断ができることはなく、目安としての良性悪性の所見はありますが、やはり検査を行わないと正体を掴む糸口は難しいものがあります。

今回のできものは「(いつからか不明だけども)短期間で目立ってきた」「やや赤みを帯びていて、固さがある」という点がお互いに気になる箇所となり、針生検という検査を実施致しました。

針生検とは、できものに対して注射針を刺し、そのできものを構成している細胞の一部分を採取して標本を作製して顕微鏡で確認する検査です。組織を採る方法が簡便で、できものに対しての検査では一般的に行われるものです。

採取した細胞を顕微鏡で見るために染色という過程を経るので、これが時間がかかってしまいますが、検査に対する動物の負担は少ない方法となります。

そして、検査を行い採取された標本がこちらです。

KIMG0570.JPG

これは肥満細胞という細胞です。青紫色の粒々を沢山含んだ細胞が数多く見られました(画質が悪くてわかりづらいですね💦)

特徴的なこの所見から、今回の皮膚のできものは『肥満細胞腫』と診断しました。

肥満細胞腫は悪性の腫瘍です。名前から太っている子がなり易いと思われるかもしれませんが、体型は関係ありません。

肥満細胞腫は、犬の皮膚に発生する悪性腫瘍では最も確率が高いものです。

発生部位が限定的なものもあれば、発生部位から範囲を浸潤拡大するもの、遠隔転移していくものなど様々な挙動を示します。

この腫瘍が厄介なのは、上記にあるように周囲への転移・浸潤が強い傾向を示します。ですので、この腫瘍が見つかった場合には基本的には外科的な介入が第一選択となり、範囲が広がる前に切除するのが最善な方法です。

発生部位や健康状態によっては外科手術が適応できない場合もあります。

今回のワンちゃんは検査の結果、右後肢の一部に病変は限局しているようでしたので外科切除をご提案させていただき、即日に手術を実施致しました。

KIMG0549.JPG

外観だけ見ると、虫に刺されて赤く腫れちゃったのかな?と思ってしまうかもしれません。

でも実は皮膚が赤くなっている部分は、前日の針生検の時には見られなかったものです。

中央の隆起している部分が肥満細胞腫の本体ですが、針生検の検査を行ったことによる刺激でこのように変化しました。

ということは、一番最初に来院された時は中央のでっぱり部分しか病変が明らかになっていなかったということになります。

なかなか気付きにくいものだと思います。

この赤くなっている皮膚の部分から、問題ない正常な皮膚の部分を余分に確保しながら切除しました。

余分に正常部を切除する理由は、浸潤拡大しやすい点が考慮されるため、腫瘍細胞が存在しない安全域を得るためです。

後日の病理組織検査で、肥満細胞腫が確定しました。腫瘍細胞が周囲に手足を広げている様子はなかったという事なので、今回の切除で経過は良好なものを思われます。しかし、今後も再発には注意してみていく必要性があります。

今回の件は飼い主様が「なんだか気になる」という事で早期に受診してもらった結果、早期治療を行うことができた例となります。飼い主様の直感が冴えわたった件となりました。

先程も書きましたが、中高齢以降は様々なできものが皮膚にできてくることがあります。気になる点があった場合は、迷わず早めの診察にご来院下さい。問題なければそれで良しですが、問題があった場合は早期発見早期治療が大切になります。



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