子宮疾患疑いの猫ちゃんの一例


子宮に関連する疾患は色々とありますが、遭遇する機会があるのは子宮蓄膿症や子宮水腫、子宮内膜炎、子宮筋腫などがあります。

このうち子宮蓄膿症は、避妊をしていない犬猫の中高齢以降に多く見られる疾患の代表例です。

発生率に関しては諸説ありますが、統計データの一つでは10歳以上では4頭に1頭に発症のリスクがあるという報告もあります。

年齢が上昇するに伴って発症のリスクも上昇していきます。

多くは7~8歳以上のシニアの年齢に入ってからが大半ですが、4~5歳くらいでの発症も見かけることが多くあります。

子宮蓄膿症は、発情出血の後の2か月間に発生しやすくなります。発情に伴うホルモンの変化で免疫力が低下してしまい、その影響で細菌感染が起こってしまう事が原因です。

また発情以外でも、卵巣の疾患でホルモン異常を起こしていたりしても同様に発症を招いてしまう事もあります。

症状が急激に出る場合と、ゆっくりと進行していく場合とあります。

よく見られる症状は食欲不振、元気消失、発熱、嘔吐、陰部からのおりものの増加、飲水量・排尿量の増加、腹部の膨満などがあります。特に陰部からのおりものに関しては、この症状が見られて未避妊の場合には子宮蓄膿症が第一に疑われますが、これは開放型というもので、おりものの分泌が見られない閉鎖型もあります。後者は気づくのが遅くなりがちで、症状が重篤化しやすい傾向にあります。

重症化すると、敗血症、腎不全、播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を起こし、最悪は亡くなってしまう例もあります。

診断には血液検査、レントゲン検査、超音波検査を用いて行われます。

そして治療方法の第一選択は、外科的に膿が溜まっている子宮と卵巣を摘出する方法となります。

内科的には抗生物質の投与や、アリジンという注射(※当院に現時点で取り扱いはありません)による治療などがありますが、何れも再発する可能性や効果が認められない場合もあります。根治的な解決策としては外科手術が最も確実です。

但しあまりに状態が悪すぎたり、他疾患の為手術が適応できない場合には内科的な治療法も選択肢として挙げられますが、外科介入による治癒が期待できる場合に内科治療を選択される事は推奨されません。

手術前の状態があまり悪すぎない場合では、術後2~3日以内に体調が回復してくる例も多くみられます。

さて、今回ご来院されたのはネコちゃんで、元々は野良ちゃんでしたがお家で飼育されるようになり、推定4~5歳くらいとの事でした。2~3日前からの食欲不振と、鼻水・くしゃみを主訴にご来院されました。

しかし来院時に目についたのは、重度の脱水と体温の低下、意識の低下でした。

特に脱水に関しては緊急性を要する程だったため、即入院して点滴治療を行う事になりました。

治療と並行して検査を進めていくと、陰部周りに血様の分泌物が乾燥して付着している様子が見られました。おりものの排出は入院中も継続していました。

KIMG0566.JPG(シーツに付着した分泌物)

レントゲン検査では子宮が腫れている様子が窺え、避妊をしていなかった点から子宮蓄膿症を第一に疑いました。

では超音波検査で子宮を見ると...おや?膿が溜まっていない?子宮蓄膿症の場合、子宮内に膿が貯留している画像所見が多いのですが、今回に関しては膿が溜まっている様子が見られません。開放性の場合、膿が排出されることで貯留してる所見が見られないという場合はありますが、何だか腑に落ちません。

ですが子宮が異常な腫大を起こしている所見があり、子宮に問題が起きていることは確実でした。

血液検査では白血球の著しい増加が見られました。持続的な排膿出血のため貧血もあります。

子宮蓄膿症又は子宮内膜炎・子宮腫瘍などからの排膿出血と判断し、脱水状態を含む体力の回復を2日ほど待ってから外科手術を行いました。

KIMG0564.JPG

今回の手術で摘出した子宮と卵巣になります。

通常の子宮はもっと細く、ぼこぼこと膨らんでいる事はありえません。

外見上では卵巣は左右共に異常はなく、子宮蓄膿症の多くがホルモン異常などを起こしている事を考えると、今回の例は子宮そのものの異常(子宮内膜炎は腫瘍など)が引き金となったと考えられました。

手術翌日からは自分で食事を食べるようになり、食欲が安定化した3日後に退院となりました。

手術前からの一般状態が芳しくなかった為、今後も継続的に状態管理を見ていく必要性があります。

今回摘出した子宮の病変は、残念な事に子宮腺癌という稀な悪性腫瘍でした。

未避妊の子がすべからく子宮蓄膿症などの子宮疾患になってしまうわけではありませんが、やはり体力が衰えてくるシニア年齢になると生殖器系の病気は多く見られます。子宮蓄膿症においては状態にもよりますが、早期に疾患が見つかって治療した場合の死亡率は低いですが、DICや敗血症を伴ってしまうと非常に危険な状態となる病気です。基本的な予防は、やはり避妊手術となります。子宮蓄膿症の手術も、方法としては避妊手術と非常に類似しています。しかし、リスクは大きく異なります。

健康な状態で行う予防的な避妊手術が、最も安全性の高い予防方法となります。



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