偶発的に子宮の異常が発見された例 ~ゆきちゃん、頑張りました!~
今回は子宮卵巣摘出術、簡単に言い直せば避妊手術を実施したネコちゃんの例です。
避妊手術は「子供を産ませない、妊娠させない為の手術」という事でご理解されている方も多いと思われます。
故になのかどうかはわかりませんが、「避妊手術=簡単な手術」と思われがちです。
確かに、通常であれば決して難しい手術ではありません。我々獣医師が行う手術内容としては基礎となるものです。しかし避妊手術は開腹手術であり、また臓器を摘出する手術(子宮卵巣両方か、卵巣のみかは病院さんにより異なります)となります。動物と人間を全く同一視するわけではありませんが、人間で同じ手術を仮に行うとするとかなりの大事になります。ですので、当院で避妊手術を行う際は基本は1泊入院とし、手術中も麻酔モニターなどをしっかりと行った上で実施しております。
と、大分話がズレましたので元に戻させて頂きますね。
今回の猫ちゃんはゆきちゃん。
真っ白く流れるような毛と、オッドアイ、反った立ち耳がチャームポイントのアメリカンカールの猫さんです。
実は今回の手術は避妊ではなく、あえて子宮卵巣摘出術と堅苦しい表現をさせていただいたのには後述の理由があります。
当院受診の経緯としましては、オシッコのトラブルがメインでした。
トイレ以外の場所で粗相をしてしまうという主訴でした。特に外観上の血尿や、オシッコの際の痛みなどの症状は見られませんでした。お話を伺ってみる中では膀胱炎が第一疑いで、尿検査を実施するために超音波検査で膀胱にオシッコが溜まっているかを確認する事になりました。
右側の黒い部分が膀胱に溜まっているオシッコになります。
その膀胱の下の方には白いモヤモヤが堆積しています。尿検査の結果、このモヤモヤはストルバイトという結晶と判明しました。
問題はそれ以外です。膀胱の左側に、同じように黒く水が溜まっている空間があります。
通常であればこの部分に液体が溜まる事はありません。溜まっている部分は子宮になります。この画像以外でも子宮の中に液体が溜まっているのは明らかでした。
子宮の中に液体が溜まってしまう病気で最も心配なのは子宮蓄膿症です。これはバイキンが入り込み、子宮内で増殖する事で膿がパンパンに溜まってしまう病気です。発見・治療が遅れると死に至る事もある病気です。画像を見た際には先ずこの病気が頭をよぎりましたが、種々の状況から別の病気の可能性の方が高いと考えました。それが子宮水腫です。蓄膿症と水腫の違い、ざっくりというと水(のようなもの)が溜まるか膿が溜まるかの違いと思ってください。
しかし、可能性としては蓄膿症も排除できない為、治療兼確定診断の為にこの子宮を摘出する事になりました。
摘出した卵巣と子宮です。左右で形状が異なるのは一目瞭然です。
膨らんでいる方の子宮には液体が貯留しており、また卵巣部分も大きく膨らんでいます。
中に溜まっていた液体です。透明で、まさに"水"が入っているようでした。
病理検査の結果では悪性の所見は幸いにもなく、しかし子宮内にポリープが幾つか見られた事から、将来的によくないものが発生するかもしれないリスクは抱えていたことになるでしょう。大事になる前に先手を打つことができて良かったです。
手術が終わった後のゆきちゃんです。もう本当に写真の撮り方が下手な院長の為、ゆきちゃんの可愛らしさの一部しか表現しきれてない事、申し訳ございません‥・。
術後2時間後くらいですが、手を出すと撫でれ撫でれと頭をスリスリしてきてくれます。決してすごく楽でいい気分~ではないにもかかわらずこうしてくれるのは、この子の人柄・・猫柄を表していますね。
先日抜糸も無事に終えて、今は引き続き尿石症の治療を継続中です。こちらの治療も頑張って行こうね!!
今回はオシッコのトラブルからの検査で、偶発的に子宮の異常が見つかった例です。
今回の異常が将来的に必ずしも悪い方向に行くと決まっているものではありませんが、やはりリスクとしては何もないよりかは高くなってしまいます。オシッコトラブルがなければ画像検査をする機会というのはなかなかないでしょうから、今回の異常は何らかの症状が出てから見つかっていたという事になるでしょう。
定期的な健診もそうですが当院としてはやはり若い健康な年齢の間に避妊手術を行い、将来的な病気の予防という点について飼い主様に考慮していただきたいと思っております。