歯石、歯肉炎で治療実施した猫ちゃんの例
今回は口の症状を主訴に来院された猫ちゃんの例です。
食べた・齧ったものに血が付いているという事で飼い主様は異常に気が付かれました。
同居猫さんが他にも何頭かいらっしゃるお宅でしたので、猫同士によるケンカによって口を怪我してしまったと思われるとの事でした。
しかし実際に診察してみると、診察の一番最初から猫ちゃんは口を開けたままの状態でした。
猫ちゃんは口を開けての呼吸というのは、心臓または呼吸器機能に異常を有している場合が多い為にそちらを懸念しましたが、呼吸は安定しておりました(緊張はしていましたが)。
よく見ると、口周りに涎が多く付いているのと、それに血が混じったようなものも・・・
そしてやはり口臭が強く、これは歯の痛みから口を閉じられないのではと考えて口の中を覗いてみると、ドンピシャリでした。奥歯(臼歯)の部分がひどく傷んでおり、それに伴って歯茎もグズグズになってしまっており、歯が動揺している状態でした。
この猫ちゃんは室内飼育で、年齢は中年齢~シニア初期という頃合いです。食事も一般的なフードを与えていらっしゃいました。食事量が少なくなったなと思ってからは柔らかいレトルト状のものを上げていたようです。
年齢の点からすると、今回のような歯のダメージは早いなという印象でした。
歯そのもののダメージよりも、歯茎、歯肉の影響によるといった方が正しいでしょう。
猫ちゃんは歯肉口内炎が多い動物です。元々歯磨きをしない動物ですので、ワンちゃん以上にデンタルケアを習慣づけるのは大変です。また、元野良猫又は保護猫を迎えてというケースですと、幼少時にウイルス感染し、そのウイルスキャリアとなっている場合があります。そういった子は、歯肉炎になり易い要因を抱えてしまう事になります。ちなみにウイルスはカリシウイルスや、猫エイズウイルスです。これらは一度感染した経緯があると、終生ウイルスは体内に存在する事となります。(ですが、必ずしも発病するわけではありません。)
どのような背景がこの子にあったかはわかりませんが、飼い主様とのご相談にて、とにかく痛みをとってあげることが最優先という事で、即日処置を行う事になりました。
今回は写真がどれも映りが悪く見づらく申し訳ないのですが...
麻酔をかけた直後の様子です。写真に注釈してありますように、奥歯に歯石が付いているのがお分かりいただけると思います。歯茎の部分は見えませんが、赤くグズついた感じになってしまっていました。写真に見えている奥歯よりも手前側に通常はもう2本、歯があるべきはずなのですが、既に脱落してしまっておりありませんでした。つまりは、口の中のトラブルはもうちょっと若い頃からあったという事になります。やはり時期としては早い事になります。
先程と同じ歯の部分です。歯肉部分の炎症、出血している様子がわかるかと思います。
この写真でみると、上顎部分の歯がない事に気づかれますでしょうか?これは抜いたわけではなく、下の歯と同様に過去に抜けてしまっていたというものです。犬歯(牙)の歯肉も、充血して腫れています。
また見えにくい写真で申し訳ないのですが、反対側の口の様子になります。
様子としては先程と同様に、既に抜けてしまった歯も多く、残っていた奥歯は歯肉炎がひどく、抜歯が必要不可欠な状態でした。こちらの下側の犬歯は、根本が露出するほど傷んでいた為にこの歯も抜歯しました。
結果的に、残っていた全ての奥歯を抜歯する事となりました(全臼歯抜歯)。
また、前歯の数本も残存が不適と判断したものは抜歯しました。
抜歯した歯の全てです。もしも他にも傷んでいた歯が抜けずに残っていたら、もっと痛かったのではと思います。結果的に抜けていた歯があったからこそ、今まで特に症状が強くみられなかったのだと思います。
猫ちゃんの歯石の付着はその食事内容やデンタルケアなどの有無にもよりますが年齢の経過と共に次第についてきてしまいます。それに伴っての歯肉炎というのも多いですが、この子のように年齢の割に歯石の付着が重度で、歯肉炎も重度な場合には、基礎には歯肉炎を引き起こす何らかの要因(先述のウイルスキャリア、免疫疾患、口腔内細菌叢の乱れ等)が存在しているケースが多いです。その確定は困難な例が多く、そして治療も困難な例が多いです。
歯石付着の関与が特になくても、慢性的な歯肉口内炎を患ってしまっていて食べ物が食べにくかったり痛みがあったりする場合は、内科療法のみではなく外科的な治療(全臼歯抜歯や全顎抜歯)が必要な事もあります。そういった事がもしある場合は、ご相談下さい。