腸閉塞で腸管切除した一例
先日の台風は夜間に通過したので、その凄まじさはニュース映像と暴風の音で主に感じられるものでしたが、通過した翌朝は街のいたるところにその爪痕が残されていましたね。自宅近辺では植え込みの木が倒れているところもあれば、どこから飛ばされてきたわからないような看板や、傾いてしまっている大きな立て看板、屋根が半壊してしまっている場所もありました。
今回の台風による動物達への影響は、やはりその音にかかわるものだと思われます。
普段聞かないような風の音、物が飛ばされたりぶつかったりする音などで一時的に情緒不安定になってしまったりする子もいるかもしれません。そういった場合には、何より飼い主様と一緒にいる時間、安心できる時間を作ってあげて頂く事と、不安などのストレスを発散できるように散歩や遊びなどを行ってあげることで、気持ちの回復が早まってくれることでしょう。
今日は腸閉塞の事例です。
異物による閉塞は決して少なくありません。果物の種、ボール、靴下、手袋、毛玉、ティッシュ、布端切れ、糸や紐、オモチャなどなどがよく見かけられる異物です。異物の多くは腸の細い部分、小腸で詰まってしまう事が多いです。大腸は太いために、小腸を通過してきた異物がここで詰まることはあまり見かけません。あまりに大きいものは胃を通過する事ができず、胃の中(幽門)で詰まってしまうでしょう。
食べてはいけないものを飲み込んでしまった場合は、すぐに処置が必要になります。
内容や大きさによっては吐かせて回収させる催吐処置や、吐かせることが危険だったりするものは麻酔下内視鏡での摘出、液体や薬剤などの場合には胃内洗浄などを行います。
何を、いつ、どれくらい飲み込んでしまったかというのは情報として非常に重要なものになりますので、是非記憶に留めておいていただきたいと思います。
今回の子はパズルマットの一部を齧っていて、それを吐いていたという主訴がありました。
その症状が見られてから徐々に食欲・元気がなくなってきて、嘔吐も頻繁にみられグッタリしてしまったとの事で来院されました。
高齢の子で全身的な体力の低下、脱水が顕著だった為に危険性が高い状態でした。問診で得られた情報と画像検査にて腸閉塞を確認し、来院日は点滴処置による状態改善を図り、翌日に手術を行いました。
閉塞していた部分は詰まりやすい小腸の空腸・回腸といった細い部分より手前の、十二指腸の部分で閉塞していました。
閉塞部分の周囲は炎症により癒着があり、また閉塞部の一部は壊死が認められました。
場所が良くないことにこの近くには膵臓という臓器が存在するため、そちらの影響も懸念されました。
切除した閉塞部分です。一部壊死と癒着があった為、その領域を含んで健康な部分の一部を含めて切除してあります。
妙に鋭角的になっている腸がおわかりいただけるでしょうか。
一部壊死して、癒着していた部分です。
これがこの子を苦しめていた敵の正体です。飼い主様の仰られていたように、パズルマットの一部でした。
パズルマットの角の部分がつっかえ棒の役割となってしまい閉塞してしまったのでしょう。
来院時の状態と、閉塞部分が懸念される領域でしたが、1週間の入院の後には驚くほど食欲旺盛になって退院していきました。きっとこの食欲なら回復も早い事でしょう。
異物による閉塞は、疑われるものと、診断・治療までの時間が大切です。一般的には0~1歳までの子犬子猫や、食事やオヤツを丸飲みする傾向にある大型犬の子などが異物誤飲が多くみられます。また猫は糸や紐といったものでの閉塞も多く、これらは非常に腸の損傷が広範囲に及ぶことが多いですので、紐などで遊ぶ際は十分に気を付けてあげてくださいね。