鼠径部潜在精巣のワンちゃんの去勢手術


犬の睾丸は、生まれる前にはお腹の中にあります。

生後にお腹の中にある睾丸が、陰嚢という袋の中に向かって移動していきます(精巣下降)。

一般的には生後3か月以内には陰嚢内に収まりますが、遅くとも生後6か月には下降していなければなりません。

しかし、何らかの理由によりこの睾丸が陰嚢に下降せず、定位置でない場所に留まってしまうことがあります。

これを潜在精巣又は陰睾と呼ばれます。

原因は、遺伝的要因と言われております。

潜在精巣にはその場所により、腹腔内あるいは鼠径部に見られるのが一般的です。

潜在精巣だった場合に、注意しなければならない点があります。

先ず一つ目は、定位置にない精巣は生殖能力を有してはいません。腹腔内の精巣に関しては委縮してしまい小さくなっていることがほとんどです。鼠径部の場合は生殖能力を有している場合もありますが、基本的に潜在精巣が遺伝性のものですので、潜在精巣の子を繁殖に用いることは好ましいことではありません。

二つ目は、潜在精巣は将来的に正常位置に睾丸があった場合と比較して腫瘍化する確率が非常に高くなります。

精巣に発生する腫瘍は「セルトリ細胞腫」「精細胞腫(セミノーマ)」「間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)」の3つです。

どの腫瘍でも潜在精巣の場合はその発生率が上昇します。中には腫瘍化することで大量のホルモンを分泌するようになり、不可逆的な骨髄抑制による貧血や免疫低下、リンパ節や肺への転移なども引き起こします。

上記二つの点から、潜在精巣であった場合に睾丸を残すメリットは非常に低く、むしろ将来的なデメリットが高くなります。

全ての例で腫瘍化するわけではありませんが、腫瘍化してから手術を行う事は様々な弊害を引き起こしている事が多く高齢の事が多いためリスクは上昇します。

そういった事態を避けるために、遅くとも1歳の時点で睾丸が定位置にない潜在精巣の場合には必ず去勢手術を行う事を強くおすすめします。

今回のワンちゃんは、両側の睾丸が鼠径部で留まってしまった例です。KIMG0556.png

睾丸の大きさは左右とも同じ大きさで、お腹の中からは出てきているので委縮して小さすぎるというものではありませんでした。

鼠径部の場合は、睾丸がある部分の皮膚を切開して摘出するのが一般的ですが、このワンちゃんは睾丸を移動させることで通常の去勢手術を行う時のように1か所の術創で摘出する事ができました。

腹腔内の場合は、避妊手術のように開腹しての睾丸摘出となります。

KIMG0557.JPG

絆創膏の下に1か所の術創で、1週間後に抜糸を終えて終了です。

去勢手術は必ずしも行わなければならない手術ではありませんが、潜在精巣の場合の去勢手術は必ず若い年齢の内に行うようにしてあげてくださいね。



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