乳腺腫瘍を摘出した2例
以前に、乳腺腫瘍を切除したももこちゃんのお話をさせて頂きました。
病理検査の結果、ももこちゃんに多数存在していた乳腺腫瘍は幸いな事に全て良性の結果でした。
今回の乳腺腫瘍の例は、残念ながら悪性という病理検査結果だったお話です。
乳腺腫瘍の悪性度の判断基準の一つに、腫瘍の大きさがあります。
1cm未満のしこり、1~3cm未満、3cm以上の3つに区分されています。
このうち3cm以上のものは悪性の疑いが高く、転移などの可能性も高いといわれます。
逆に1cm未満のものは良性の腫瘍である傾向がありますが、多発性であったり再発性であったりする場合には注意が必要です。
1~3cm未満はその間となりますので、良性の例も悪性の例もあります。
但し、大きさはあくまで基準の一つに過ぎず、大きさのみに頼って良性悪性を判断する事には危険性があります。
今回悪性という結果が出た乳腺腫瘍は、いずれも1~3cm未満の区分に入るものでした。
ちなみに以前に手術したももこちゃんの一番大きかった腫瘍は3cmありました。しかし、良性腫瘍でした。
1例目は8歳の猫ちゃんです。1歳前後で避妊手術をされている子でした。
脇の下の近くにしこりがあるとの事でご来院されました。
部分的に乳腺腫瘍が疑われた為、針吸引検査を行ったところ、悪性度のある細胞が認められていました(乳腺腫瘍かどうかの判断はつきませんでした)。
猫での乳腺腫瘍は、そのほとんどが悪性と言われています。手術前検査では転移像などは認められなかった為、外科的切除を第一に飼い主様とご相談させていただきました。
腫瘍がみつかった乳腺部分を含む片側全切除するのが治療としての理想ですが、術後管理の点と飼い主様とのご希望にて、腫瘍を含む領域乳腺切除を行う事になりました。
一番目の乳頭の直下とその近く、丸で囲った部分にしこりがあります。
それらを含みつつ1番目の乳腺を切除する形で、黄色線のように摘出しました。
切除した組織です。大きい方のしこりは直径で1.4cmほどでした。
病理検査では乳腺癌という結果だった為、今後は癌の再発・転移予防の為の治療と、定期検査が必要となります。
2例目は12歳のワンちゃんです。この子も避妊手術をしていましたが、手術を実施した年齢は2歳頃との事でした。
一番下の乳腺の近くにしこりがあるとの事でした。
ワンちゃんの乳腺腫瘍は、左右4~5乳腺部に発生する事が多い傾向です。
このワンちゃんも一番下の乳腺でしたので、その傾向に重なります。
大きさは1.4cmほどでした。針吸引検査では良性の乳腺腫瘍を疑う結果でしたが、悪性度の判断は針吸引検査では断定が出来ない為、腫瘍のある乳腺と繋がる一つ上の乳腺を含む領域乳腺切除を実施しました(この子はおっぱいが片側4つ)
赤丸部分にしこりがあり、紫のラインで切除しました。
丸部分にしこりがあります。付随するリンパ節も切除しています。
病理検査では乳腺癌で、リンパ節転移も認められました。
腫瘍細胞を叩くための抗がん剤投与や、増殖を抑制するための内服薬の投与などの治療方針をご相談させていただき実施していくことになります。こちらも転移・再発の兆候を調べるために定期的な検査が必要となります。
今回の乳腺腫瘍はどちらもあまり大きくないしこりでしたが、結果は良くないものでした。
年齢や健康状態により、必ずしも乳腺部のしこりに対して全て手術を行うのが最適ともなりませんが、小さくても悪性で短期間の内に数倍に巨大化する事もあります。
乳腺のしこりに気づいた際は様子を見ずにすぐに動物病院を受診するようにお願い致します。