皮膚のできもの ー 毛包上皮腫の例
今回は先日に皮膚のできものを主訴に来院したワンちゃんのお話です。
2ヶ月ほど前に胸の皮膚に数mmのしこりがあるとの事でした。
様子を見ていると少しずつ大きくなってきたましたので、診察した上でご相談となりました。
ワンちゃんは9歳の男の子です。毛を刈った後ですのでわかりやすいですが、中央部分に白い楕円状のしこりがあります。
「イボ」であったり「しこり」であったり「腫瘤」であったりと、表現は様々ですが中高齢のワンちゃんには皮膚のできものというのが少なからず見られるケースが加齢によって増えてきます。また犬種によってその出来やすさというものも違ってきます。
外見上でそのできものが良いもの・悪いものという評価は一概にできません。また、それが腫瘍性なのか非腫瘍性なのかというものまた然りです。
皮膚にしこりを見つけた場合、大きさにもよりますが一般的には針生検という検査を行います。
しこりに針を刺して、そのしこりを構成している細胞成分の一部を採取して標本にし、顕微鏡で確認するという検査です。
検査の利点はその簡便さです。通常は鎮静や局所麻酔などは用いず実施が可能です。欠点は、しこりのピンポイントでの細胞採取によりますので診断率が100%ではないという事です。
この検査を実施することでおおよその診断、方針を定めて治療(外科なのか内科なのか様子見なのか等々)していくという流れが多いです。
今回のワンちゃんのケースでは、診察して状態・状況を見ると、表皮内嚢胞というものが最も疑われました。
表皮内嚢胞とは、毛穴の部分(毛包)に袋状の構造物ができてしまい、そこに皮脂や角化物などが蓄積して膨らんできてしまうものです。内容物が満たされてくると周囲を圧迫するため触ると痛がったり、そのままにしておくと袋が破裂してしまう事もあります。
腫瘍性の病変ではありませんので、対症的に膨らんできた部分に切開を入れて内容物を排出させたり、袋状構造物を引き剥がしたりして治療する例があります。しかし上記方法ですと再発する可能性もあるので、根治としてはその袋含めて周囲丸々切除します。
しかし、外観はそのように見えても腫瘍性病変が存在している可能性も勿論あります。
「可能性としては表皮内嚢胞が一番疑わしく、切開排出の対症療法での対応も可能ですが再発する可能性があります。また、表皮内嚢胞でない場合も考えられ、その場合は針生検をするか、検査を兼ねてしこりそのものを切除してしまうか(表皮内嚢胞であれば根治的)という選択があります」とご提案させて頂き、検査及び根治目的として切除する事になりました。
しこりそのものは8mmくらいで、マージンを取った上で約12mm程で切除しました。
病理検査に提出すると、結果は毛包上皮腫という良性の皮膚腫瘍でした。悪性の所見もなかったとのことで安心です。
毛包上皮腫という腫瘍も中高齢以降に多く見られるものですが、対症治療ですと再発を繰り返すケースがあるため、今回の切除選択は根治目的に合致していたということになります。
今回は単発の発生でしたが、多発的に各所に出来てしまう例もあります。その全てを切除すべきかどうかは状況によりますが、体を触っていて何かしらのしこりに気づき、そのしこりが大きくなってきたり色が変わってきたりと言うことがあれば、早めに調べておきましょう。